NG矯正の症例:大人のNG矯正
まだ治すところがあるのに・・・/ゴールの違いでこんなに変わる
でこぼこの歯並びをきれいにしたくて矯正治療を受けたのに、歯が後ろ向きに倒れていて隙間が残り、歯のねじれもあって見た目が悪い。きれいな歯列にならなかったのは「歯の形のせいだから仕方ない」と取り合ってくれず、次回で治療を終了すると告げられて困ってしまった患者さんからご相談を受けました。
- 再治療を担当したJBO認定歯科矯正専門医
- 廣島 邦泰(三重県伊賀市 アイウエオ矯正歯科医院)
- 年齢・性別
- 33歳8ヶ月(女性)
- 前歯科医院での治療
- マルチブラケット装置(ストレートエッジワイズ)による抜歯矯正。抜歯部位は下顎右側第一小臼歯と、左側第二小臼歯の合計2本。
- 再治療を希望された理由
- でこぼこや隙間が残っているのに矯正治療の終了を告げられ、歯のねじれや隙間を指摘しても「こういう歯の形だから」と改善してもらえなかったことに不信を感じたため。
前医での治療
でこぼこも、隙間も、ねじれも残っていますよね?
前医で下顎右側第一小臼歯と左側第二小臼歯の合計2本を抜歯し、約2年間のマルチブラケットでの矯正治療が「次回で終わる」と告げられた方が、当院に相談に来られた初診時の口腔内写真です。
下の犬歯が後ろ向きに倒れていて、隙間が残っています。奥歯にはねじれも見られます。この状態で、矯正装置を外して矯正治療を終えると言われたそうです。奥歯に矯正装置がついていませんが、こちらは最初からついていなかったとのことでした。
前医で治療を始める前に撮った口腔内写真をお持ちでしたので、当院初診時のお口の状態と見比べてみました。
下顎の右側第一小臼歯と左側第二小臼歯を抜歯して矯正治療を開始していますが、前医での説明では、左側は第二小臼歯ではなく第一小臼歯を抜歯することになっていたそうです。なぜ抜歯部位が変わったのかについての説明はなかったとのことです(前医初診時▲印の歯)。
また、上顎の第一大臼歯は20年ほど前に抜歯してそのまま放置していたそうです。
治療前後の変化については、前歯のでこぼこはほぼなくなったようですが、下顎犬歯は後ろ向きに倒れて右側には隙間が残っています。矯正装置がついていなかった奥歯はそのままです。
当然患者さんは前医に「まだでこぼこが残っている」ことを伝えました。ところが前医は「こういう歯の形だから(でこぼこが残るのは)仕方ない」と答えたそうです。つまり、患者さんの歯の形が悪いから、これ以上改善することはできないということです。患者さんは納得できるはずがありません。
不信に感じた患者さんは、本当に歯の形のせいで治すことができないのか、一番の主訴であるでこぼこを治す方法はないのかを相談したくて、アイウエオ矯正歯科医院にいらっしゃったそうです。
アイウエオ矯正歯科医院での治療
検査・診断
再治療のための診断・治療計画立案を行うために、レントゲン撮影(セファログラム・パノラマ)、顔面・口腔内写真の撮影、歯型採取等の検査を行い、資料を採取しました。
患者さんのご要望によりお顔の写真をお見せすることはできませんが、再治療開始のセファログラムから、口元(プロファイル)はバランスが取れていることがわかります。
咬み合わせは両側とも、上顎第二小臼歯と下顎第一大臼歯の交叉咬合が残っていました(円で囲んだ部分)。右側は下の犬歯が後ろに倒れており、隙間が残っていました。
パノラマレントゲンで歯の根やあごの状態を確認すると、右下犬歯が歯根吸収していました(丸印部分)。
また、下顎の両側に親知らずを認めました(矢印部分。右側は埋伏していました)。
歯は一見並んで見えますが、実は奥歯にねじれが残っています。
歯の模型で見ると、上顎の奥歯の溝(黒の線)も下顎の奥歯の山(黒の線)もつながりが乱れており、きれいなアーチを描いていないことがよくわかります。
治療方針の決定
装着してある装置は前医で撤去すべきなのですが、患者さんは行きたくないと強く拒否されましたので、患者さん同意のもと装置を外し、上下顎ともスタンダードエッジワイズ装置(与五沢エッジワイズシステム)に切り替えて矯正治療を行いました。
口元(プロファイル)はバランスがよかったので、当院での新たな抜歯は行いませんでしたが、上顎第一大臼歯の欠損による咬み合わせのずれ(下顎の第一大臼歯が上顎の第一大臼歯に対して著しく前方にある咬合状態)になることを伝え、了解を得てから治療を開始しました。
治療後
当院での動的治療期間は1年6ヶ月でした。
上下の歯の咬み合わせも歯並びも良くなり、患者さんが不満に思っていたでこぼこや隙間がなくなって、自信を持って笑えるようになったことを大変喜ばれていました。
パノラマレントゲンを確認すると、下顎前歯の根尖部の歯根吸収が認められましたが、再治療前から見られた右側犬歯の歯根吸収はほとんど変化していませんでした(丸で囲んだ部分)。
模型もチェックします。
ガタガタだった上顎の奥歯の溝(黒の線)と下顎の奥歯の山(黒の線)のつながりが良くなり、黒の線が直線的になりました。上下の歯がしっかりと咬み合うようになりました。
現在は保定装置をつけて保定観察に入っています。下顎の親知らずは抜歯する予定です。
検証
矯正治療のゴールは、歯科医師によってこんなに変わる
当サイトで、矯正治療を受けて後悔しないためのポイントとして、「矯正治療のゴール(症例の見方)」をご紹介していますが、私たちJBO認定歯科矯正専門医が考える<治療のゴール>の条件は、「歯がきれいに並んでいること」「口元もきれいであること」「咬み合わせがきちんとして、正しく機能していること」の3つです。
今回の患者さんは、まさにその3つの条件を<治療のゴール>として希望されていたように思いますが、前医が考える<治療のゴール>はそれとは異なっていたのではないでしょうか。
<治療のゴール>をどのように定めるかで、治療結果は全くと言っていいほど異なってしまいます。「大切な歯を勝手に削られた!」というNG矯正再治療例でも説明しましたが、治療のゴールに対する考え方は治療を担当する歯科医師によって異なり、見極めが難しいことです。 矯正治療を失敗しないためには、治療を始める前に、きちんとした検査から導き出された<治療のゴール(最終目標)>と、その治療方法について納得できる説明をしてくれるかどうか、ということを、矯正歯科医院選びの基準のひとつとされると良いでしょう。