NG矯正の症例:子供のNG矯正
歯根が露出してしまう!?拡大治療の危険性について
歯を抜かないで矯正治療を行う「拡大矯正」の危険性についてご紹介します。
拡大矯正は叢生の除去等の目的で、抜歯を行わずに顎の骨を拡大させるという治療法ですが、万能の治療法ではありません。必要以上の拡大は、後戻りや口元のバランスを崩すなど問題を生じる場合が多いと考えられるため、基本的にはするべきではないと考えています。
特に過度な拡大を行った場合、骨から歯根が飛び出してしまうことがあります。
下記の症例はJBO認定専門医のありまつ矯正歯科医院へ初診で訪れた患者さんのものです。
- ご相談の患者さん(16歳10ヶ月 男性)
- 前医での治療期間:2年以上
治療内容:出来る限り歯は抜きたくないという母親の思いから、「永久歯を抜かないで、矯正治療が出来る」という医院で拡大治療を開始。あごの骨を大きくするため、拡大装置を治療中ずっと装着していたとのこと。 - ご相談の理由
- 2年以上拡大治療を行ったがあまり改善が認められず、突然次回よりマルチブラケット(いわゆるワイヤーを使う矯正装置)による治療に切り替えますと言われた事に不信感を持って、JBO認定専門医のところに相談にこられました。
- 患者さんの状態
- 上顎の第一大臼歯のほっぺた側の歯根が露出していました。(※上部画像の赤丸部分)
JBO認定専門医が指摘したところ、前医からの説明や指摘は全くなかったそうです。
過度な拡大治療が行われていたことがわかります。
歯根膜がなくなった場合、二度と歯槽骨が自然に再生する事はありません。したがって歯根が露出するという取り返しのつかない状態になってから「永久歯を抜かない場合のリスク」と向き合うことになってしまいました。
歯の構造について
まずは歯の構造をおさらいしましょう。
左の図は歯の基本構造です。
(1)歯は歯槽骨に支えられています。
(2)歯と歯槽骨は歯根膜によって結ばれています。
※歯根膜はクッションの役割もしています。
(3)歯槽骨は歯肉に被われています。
(4)歯槽骨の土台となる部分を歯槽基底といいます。
※歯は歯槽基底を越えて動かすことはできません。
拡大矯正のしくみ
拡大矯正用の装置をご紹介します。
取り外し式プレート装置はあごの骨を拡大するための装置です。
拡大床(かくだいしょう)、床矯正装置(しょうきょうせいそうち)とも言います。ネジで押し拡げたり、ワイヤーの弾力を利用して少しずつあごを拡げて行きます。
急速拡大装置は固定式のあごの骨を拡大するための装置です。取り外し式装置よりもさらに強い力を24時間加え続けることであごの骨を拡大します。
固定式は患者さん自身で外すことはできません。
近年では患者さん向けに「床矯正で限界だった方に朗報」「他の装置より短時間で拡大できる」などと謳われていますが、かなり強い痛みがあり、食事の際に食べ物を挟んでしまいやすく、簡単に除去できないなどのデメリットがあります。
顎の骨はなぜ広がるのか?
拡大矯正は骨の再生しようとする力を利用します。
【上顎骨拡大の仕組み】
上顎骨は「拡大装置により正中口蓋縫合を離開させ縫合の骨添加を待つことである程度、歯槽基底を拡げることができる」とされています。
なぜ拡大矯正で歯根が露出してしまうのか?
ただ拡げ続け、歯槽基底を超えてしまうと・・・?
歯が並ぶためのスペースが足りない場合、きちんと並ぶまで拡げ続けることになりますが、ただ拡げていくと今回の患者さんのように大きな問題が生じます。
下のCT像は最初にご覧にいれた患者さんのものです。限界を超える拡大を行ったため、頬側の歯槽骨がなくなっています。
私たちの歯は歯槽基底が土台となり支えています。しかしながら歯槽基底の限界を超える拡大を行うと歯根が露出してしまいます。
歯根が露出するということは本来歯根を覆っている「歯槽骨」「歯根膜」「歯肉」が全てなくなっている状態です。
歯根膜がなくなった場合、二度と歯槽骨と歯肉が自然に再生する事はありません。
拡大矯正治療による「歯肉退縮」のリスク
下顎の前歯は注意!歯肉退縮の大きなリスクとは
拡大による矯正は歯肉が下がり、歯槽骨の高さも下がってしまう歯肉退縮が生じやすい治療です。特に下顎の前歯は歯肉退縮が生じやすいため治療計画時から特に注意が必要です。
上の症例はJBO認定専門医のいなみ矯正歯科医院にセカンドオピニオンを求めて来院した患者さんのものです。
歯は一見並んでいるように見えますが、下顎前歯、犬歯に歯根の露出が認められます。 歯肉が下がり歯根が露出したため、下の前歯には大きなブラックトライアングルが目立ちます。下がった歯肉をなんとか再生させようと歯肉の移植が行われていますが、失われた歯肉は戻っていません。
抜歯本数を減らした場合も歯肉退縮のリスクがあります
つぎにお示しするのは治療計画を立てる際に患者さんが下顎の非抜歯を選択したため下顎前歯の歯肉が退縮した症例です。
この患者さんは上の歯を4本、下の歯を2本抜歯すれば歯肉退縮がおきることはなかったのですが、患者さんは歯肉退縮が生じることを理解した上で上の歯2本だけの抜歯を行う治療を選択されました。
納得いただいた上の治療ですが、治療前と比べると治療後は歯根が露出していることがわかります。
「歯を抜かない」ことは最善の治療ではありません
拡大治療は矯正治療の手段のひとつです。
経験のある矯正医による適切な診断を経た拡大治療は上記の様な問題は生じませんが、 拡大装置による矯正治療は「歯を抜かない、 リスクのない矯正治療」とは言えません。「抜歯をせずに治療ができます」と謳っていても、実際はただ顎を広げて並べるだけの治療を行い、歯根の露出により苦しむ患者さんか生まれてしまうのは良くないことです。
最初の症例の主治医のホームページをみると、「抜いた永久歯は生えてきません。抜かないで矯正治療を。」と謳っておられましたが、「非抜歯矯正」にこだわるあまり、大切な奥歯を失うという取り返しのつかないことになってしまいました。
一般歯科医であろうと小児歯科専門医であろうと矯正治療を行うことは可能ですが、大切なお子さんの体のことです。
経験豊富な矯正歯科専門医での治療をお勧め致します。
失敗しないためのヒント
医院が掲げるホームページの内容をよくみていただき、その医院が何にこだわって治療を行っているのか、注意していただくと良いでしょう。 大切なのは「非抜歯で治療」することでしょうか?「患者さんが将来ずっと先まで正しい咬み合わせでコンプレックスなく過ごせる」ことでしょうか?
【下記のNG症例もご覧ください】
■治療を受けたら、上も下も出っ歯に/不十分な診断
■きれいになるはずが、どうして?/口元のバランスを無視した矯正
■本で読んだ治療を希望したら・・・/咬合を無視した安易な拡大
ホームページだけではわからない場合、カウンセリングやセカンドオピニオンで聞いてみてください。
医師に提案された治療法のメリット、デメリットについて、経験豊富な矯正専門医であれば色々な治療データを持っています。
当サイトでは「失敗しないためのヒント」をご紹介しています。
ヒントの「医院ホームページの見方」や「症例の見方」を参考に、ご自身にあった後悔しない治療法を選択してください。