トップページ失敗しない矯正治療NG矯正の症例きれいになるはずが、どうして?/口元のバランスを無視した矯正

きれいになるはずが、どうして?/口元のバランスを無視した矯正

取り外し式の拡大装置を使って歯を抜かない矯正を始めたら、前歯がどんどん突出して来てしまった患者さんの転医症例です。きれいになりたくて矯正治療を始めたのにカッパのような飛び出した口元になってしまったばかりか、口を閉じることもできなくなったため、転医を決意されました。

矯正再治療の前後

再治療を担当したJBO認定歯科矯正専門医
廣島 邦泰(三重県伊賀市 アイウエオ矯正歯科医院)
転医時の患者さんの年齢・性別
27歳11ヶ月(女性)
前歯科医院での治療
拡大装置による非抜歯矯正
再治療を希望された理由
歯を抜かない拡大矯正を受けたところ、前歯が突出して口を閉じることができなくなってしまったことに不安を感じたため

前医での治療

きれいになるための矯正治療で、カッパに?!

最初に、下の【A】と【B】の2枚の写真をご覧ください。

転院前と転院後の歯並び

【A】と【B】は同一人物です。【A】はアイウエオ矯正歯科医院に転医されてきたときのもの、【B】は再治療を終えられたときのものです。こちらの患者さんは【B】のような口元になることを希望して矯正治療を始められましたが、前医の治療では【A】のような口元になってしまいました。もったりと飛び出した口元は、まるでカッパのようです。こんな口元にされてしまって、さぞかし驚かれたことと思います。

抜かないで広げたら、前に飛び出しました

拡大装置と歯並びこちらの患者さんは、半年ほど前から別の歯科医院で取りはずしのできる"拡大装置(※)"を用いて、歯を抜かずに歯並びを拡大する矯正治療を行っていたそうです。左は、患者さんが使っていた拡大装置の写真と、転医されてきたときのお口の写真を重ね合わせて作った装着中のイメージ写真です。

床矯正装置(拡大装置) (※)拡大装置
あごの骨を拡大するための取り外し式のプレート装置で、拡大床(かくだいしょう)、床矯正装置(しょうきょうせいそうち)とも言います。ネジで押し広げたり、ワイヤーの弾力を利用して少しずつあごを広げて行きます。
拡大装置には様々な種類があり、患者さんの年齢やあごを広げる量や部位によって適切なものを選ぶ必要があります。

毎日きちんと装置を使って歯を広げたところ、だんだん前歯が前に出てきてしまいました。歯を抜かずに、歯並びだけを整えようとする矯正治療で非常に起こりやすい問題です。口元のバランスや咬み合わせを無視して、でこぼこの歯並びを無理やり広げるだけで矯正治療をしようとするので、行き所のない歯は,前へ前へと出てきてしまうのです。とうとう口まで閉じなくなってきたため、こちらの患者さんは転医を決意して「前歯が出てしまったので何とかしてほしい」とアイウエオ矯正歯科医院に来院されました。

アイウエオ矯正歯科での治療

"きれいな口元"にするための再治療

転医時の歯並び

詳しく検査をしてみると、上の前歯だけでなく、下の前歯も前に出ており、口を閉じようとすると唇も前に突出して、オトガイ部分が突っ張って緊張した状態になっていました。唇の下に梅干しのようなシワが寄ってしまう状態です。
上の歯並びは隙間があり、下の歯並びはでこぼこがある状態でした。下の左側の前歯(中切歯)は唇側に出ていたため、約3年前に別の歯科医院で抜歯したとのことでした.そのため下の歯の正中は左側へ約2ミリずれていました。

そこで,前歯や口元の突出,隙間,でこぼこを治療する目的で,上の歯の左右の第一小臼歯(前から4本目)を2本と下の右側の第一小臼歯を1本抜歯し,上下顎スタンダードエッジワイズ装置(与五沢エッジワイズシステム)を用いて矯正治療を行いました。

抜歯箇所とスタンダードエッジワイズ装置

2年3ヶ月できれいな横顔に

治療は2年3か月で無事終了し、上の歯、下の歯ともに後ろに下がり、キレイな横顔になりました。それだけでなく、オトガイ部の突っ張りもなく、自然なあごになったことに満足されています。歯の隙間やでこぼこがなくなり、かみ合わせも良くなりました。レントゲンでみると、歯の根っこは平行に並んでいて、あごの関節に変化はありませんでした。下の左側中切歯が欠損しているため、前歯のサイズがあわず、下の歯の正中が約1ミリ右側にずれていますが、患者さんにお話ししたところ、とくに調整を希望されませんでした。現在は上下に保定装置をつけて保定観察しています。

矯正再治療後の口元と歯並び

治療前後でこんなにも変わる!

矯正再治療後の口元とEライン

横顔が別人のように見えます。表情も明るくなりました。
白線は「審美ライン(E-Line)」といって、鼻の先とあご(オトガイ)の先を結んだ直線です。一般的に、この線に下唇の先が接するか少し後ろにくるくらいがきれいな口元と言われています。治療前では、上下口唇ともに線より大きく出っ張っています。治療後ではちょうど下唇の先が線に接しています。抜歯によって、これだけ口元が改善されました。

検証

咬み合わせやバランスを無視したことが、患者さんの不満につながった

非抜歯拡大矯正をおこなった患者さんの全てが、こちらの患者さんのように出っ歯になってしまうというわけではありません。歯を抜かずに矯正治療ができるケースはありますが、こちらのケースのように、歯をきれいに並べるだけでなく、咬み合わせも見た目もきれいにするには、抜歯をしなくてはできないケースもたくさんあります。
非抜歯ケースか抜歯ケースかを適切に見極めず、患者さんが喜ぶからといって、全てのケースを非抜歯で治療しようとすることが誤りであると考えます。ただ歯をきれいに並べるための治療を行うのであれば、咬み合わせや見た目がきれいにならないかもしれないというデメリットを説明した上で、抜かないメリットをとるか、見た目も咬み合わせもきれいになるメリットをとるかを患者さんに選んでもらうべきではないでしょうか。

最近、こちらの患者さんと同じようなケースで転医されてくる患者さんが非常に増えており、心を痛めています。これから矯正治療を始めようとお考えの方はぜひ、患者さんに都合の良いことばかりを話す歯科医師ではなく、メリットもデメリットもきちんと説明してくれる公正な歯科医師を選ぶようにしてください。

【失敗しない矯正治療】治療を始めるにあたって大切なポイントをご紹介します。