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大切な歯を勝手に削られた!/ずさんなゴール設定

歯並びを拡大すれば歯を抜かずにキレイになると言われ、リンガルアーチとストレートエッジワイズ装置で1年2ヶ月歯並びを広げたら、前歯が飛び出して口が閉じなくなった。しかも、きれいに並ばなかった歯を勝手に削られた!大切な歯なのに!!

矯正再治療の前後

再治療を担当したJBO認定歯科矯正専門医
廣島 邦泰(三重県伊賀市 アイウエオ矯正歯科医院)
年齢・性別
32歳3ヶ月(女性)
前歯科医院での治療
リンガルアーチとマルチブラケット装置(ストレートエッジワイズ)による非抜歯矯正
再治療を希望された理由
治療を受けているうちに前歯がだんだん飛び出して、口を閉じることができなくなってしまった。
さらに、歯がきれいに並ばなかった部分を勝手に削られて不信になった。

前医での治療

思い通りに並ばない歯を勝手に削るなんて、信じられない!

初診時の歯並び

歯のデコボコを治したくて前医を訪れたこちらの患者さんは、「矯正装置で歯並びを拡大すれば歯を抜かずに治療ができる」という前医の言葉を信じて、治療をお任せしたそうです。(写真は患者さんが持参した前医でもらった資料の一部で、歯の写真のみ掲載しています。)

初診時の歯並び

当院に来られたのは、歯並びを広げる治療を受けて1年2ヶ月が経過した頃でしたが、治療が進むにつれ前歯がだんだん前に飛び出して、とうとう口を閉じるのが難しくなってきたそうです。また、あごの関節も時々痛むようになっていたようです。
このままで大丈夫なのだろうかと不安が大きくなってきていたのですが、2ヶ月前に、前医への不信が決定的になったそうです。

「一番引っ込みが大きかった左上の前歯がいつまでたってもキレイに並ばないな、と思っていたら、その歯と隣の歯をいきなり削られてしまいました。」

突然何の説明もなく歯を削られた患者さんは、さぞびっくりされたことと思います。
デコボコが治ってこないからと言って、勝手に歯を削ってしまうのは、歯科医師として疑問に感じざるを得ません。

アイウエオ矯正歯科医院での治療

検査・診断

セファログラムとトレース

当院ではまず、セファログラムを含む詳しい検査をおこないました。
上下の前歯がともに著しく前に出ています。患者さんが「口が閉じられない」と訴えていた通り、無理に口を閉じようとすると唇も前に飛び出してしまい、オトガイ部が突っ張って緊張した状態(梅干し状のシワができる)になっていました。

問題の上の歯並びはデコボコがあり、デコボコを治すために左の側切歯と中切歯の隣接面が削られていて、正中が左側へ1mmずれていました。また、左上犬歯と第一小臼歯は根管治療歯(根っこを治療した歯)でした。

治療方針の決定

抜歯をおこなった歯

不用意な歯列拡大によって突出してしまった口元、デコボコ、そして正中のズレを治すためには、上下左右の第一小臼歯(4番)の4本を抜歯し、上下顎ともスタンダードエッジワイズ装置(与五沢エッジワイズシステム)に取り替えて最初から治療をやり直す必要があると診断しました。装着してある装置は前医で撤去すべきなのですが、患者さんは2度と行きたくないと強く拒否されました。
左上の削られた歯は矯正治療では改善できませんので、矯正治療後に一般歯科で歯冠修復が必要になります。

上記について患者さんに説明し、了解を得られたため、当院での再治療を開始しました。

治療後

矯正再治療後の歯並び

当院での再治療は2年5ヶ月で無事終了しました。
上下の歯がともに後ろに下がり、きれいな横顔になりました。口元が下がったことで口を自然に閉じられるようになり、オトガイ部の突っ張りも取れました。
歯並びはデコボコがなくなり、上下の歯の正中はほぼ一致しています。咬み合わせも改善されました。

また、パノラマレントゲンを見てみると、歯の根っこが平行に並んでいます。
きちんと咬めるようになっていますので、あごに無理な力がかかることも解消されたと思います。
現在は保定装置をつけて保定観察に入っています。
左上前歯は一般歯科で歯冠修復をしていただくように、信頼できる歯科医院を紹介しました。下の親知らずは抜歯する予定です。

治療前後でこんなにも変わる!

当院で治療後の口元の変化

当院での再治療前と再治療後の横顔を重ね合わせてみました。どうですか?あなたなら、どちらの口元になりたいですか?

主訴のひとつである口元の突出は改善され、Eライン(鼻の頭とオトガイを結んだ審美ライン)に接するくらいまで引っ込みました。自然に口を閉じられるようになりましたし、あごにシワが寄ることもなくなりました。

検証

口元のバランスを無視した治療も、勝手に歯を削るのもNGです

「歯を抜かない矯正治療」でよくおこなわれることですが、このケースでも、抜かずに並べることばかり考えて、咬み合わせや口元のバランスを犠牲にしたことが失敗の原因と考えられます。
さらには、デコボコが治ってこないからといって勝手に歯を削るなど、あってはならないことだと思います。

歯を抜かずに矯正治療ができるケースももちろんありますが、こちらのケースのように、ただ歯を並べるだけでなく、咬み合わせも見た目もきれいにするには、抜歯が必要になるケースがたくさんあります。
「歯を抜かなくても治せる」といわれると、つい信用して治療を任せてしまいがちになりますが、どのような状態を「治る=治療のゴール」とするかは、治療する歯科医師によって考えが異なります。

例えばこちらのケースであれば、「歯をきれいに並べ、正しく機能する咬み合わせをつくり、口元もきれいにする」ことを治療のゴールと考える私なら「抜歯が必要」と診断しますが、前医の治療のゴールは私とは違っていたようです。

治療を担当する歯科医師が、どのような状態を治療のゴールと考えているかを見極めるのは非常に難しいと思いますが、少なくとも、「歯を抜く治療」と「歯を抜かない治療」のそれぞれについて、きちんとメリット・デメリットの両方を説明してくれるかどうかは、判断基準のひとつにしても良いかと思います。

【失敗しない矯正治療】治療を始めるにあたって大切なポイントをご紹介します。